secp256k1をGolangで実装する

secp256k1をGolangで実装する

こんにちは、CTOの森下です。

今回は、BitcoinやEthereumに使われている楕円曲線のsecp256k1を学ぶためにGolangでフルスクラッチで実装してみたいと思います。

楕円曲線

楕円曲線とは、

image

で定義された双方有理同値な曲線のことです。 楕円曲線についての説明は非常に複雑なのでここでは省略しますが、 楕円曲線暗号はこの楕円曲線の特殊な性質と離散対数問題の困難性を利用しています。

secp256k1

secp256k1とはStandards for Efficient Cryptography[1]で標準化されている楕円曲線でBitcoinやEthereumを始めとする多くのブロックチェーンの署名アルゴリズムに採用されています。 楕円曲線には主に、ビットサイズ、法とする素数p, 曲線の変数 a,b, ベースポイント G, ベースポイントの位数 n といったパラメータがあります。このパラメータがSECで標準化されているものになります。secp256k1のパラメータを以下に示します。

パラメータ

ビットサイズ

bitSize = 256

法とする素数

image
p = 0xFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFEFFFFFC2F

曲線

image
a = 0
b = 7
image

ベースポイント

Gx = 0x79BE667EF9DCBBAC55A06295CE870B07029BFCDB2DCE28D959F2815B16F81798
Gy = 0x483ADA7726A3C4655DA4FBFC0E1108A8FD17B448A68554199C47D08FFB10D4B8
// 圧縮形式
G =  0x0279BE667EF9DCBBAC55A06295CE870B07029BFCDB2DCE28D959F2815B16F81798
// 非圧縮形式
G =  0x0479BE667EF9DCBBAC55A06295CE870B07029BFCDB2DCE28D959F2815B16F81798483ADA7726A3C4655DA4FBFC0E1108A8FD17B448A68554199C47D08FFB10D4B8

ベースポイントの位数

n = 0xFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFEBAAEDCE6AF48A03BBFD25E8CD0364141

secp256k1の実装

今回はこのsecp256k1をGolangで実装します。Golangには標準パッケージに楕円曲線のパッケージ[2]である elliptic が存在しており、以下のようなCurveインターフェースが定義されています。 なので、このインターフェースを満たす構造体を作成していきます。

パラメータの定義

まずは、楕円曲線のパラメータを持つ構造体のCurveParamsを定義します。これは、elliptic パッケージで定義されているものと全く同じものです。

type CurveParams struct {
	P       *big.Int
	N       *big.Int
	B       *big.Int
	Gx, Gy  *big.Int
	BitSize int
	Name    string
}

次に、secp256k1を CurveParams 型で定義し、それぞれのパラメータも定義します。

これでパラメータの定義できました。 ここからはこのインターフェースを満たすメソッドを実装していきます。

Params()

まずは、Params() ですね。 Params()elliptic.CurveParamsのポインタを返すだけのメソッドなので非常にシンプルです。

func (curve *CurveParams) Params() *elliptic.CurveParams {
	return &elliptic.CurveParams{
		P:       p,
		N:       n,
		B:       b,
		Gx:      gx,
		Gy:      gy,
		BitSize: bitSize,
		Name:    name,
	}
}

IsOnCurve()

次は、 IsOnCurve() です。これは与えられた点が楕円曲線上にあるかどうかを返すメソッドです。 楕円曲線の公式に当てはめると

image

がゼロかどうかを調べれば良いわけですね。

func (curve *CurveParams) IsOnCurve(x, y *big.Int) bool {
	y2 := new(big.Int).Exp(y, big.NewInt(2), nil)
	x3 := new(big.Int).Exp(x, big.NewInt(3), nil)
	ans := new(big.Int).Mod(y2.Sub(y2, x3.Add(x3, curve.B)), curve.P)

	return ans.Cmp(big.NewInt(0)) == 0
}

Add()

Add() 与えられた2点の足し算を行う関数です。楕円曲線暗号には必要ないですが、インターフェースなので一応実装します。 Addの公式はパッケージのリファレンスにあったこのヤコビアン計算の公式[3]を使います。

Z1Z1 = Z1^2
Z2Z2 = Z2^2
U1 = X1*Z2Z2
U2 = X2*Z1Z1
S1 = Y1*Z2*Z2Z2
S2 = Y2*Z1*Z1Z1
H = U2-U1
I = (2*H)^2
J = H*I
r = 2*(S2-S1)
V = U1*I
X3 = r^2-J-2*V
Y3 = r*(V-X3)-2*S1*J
Z3 = ((Z1+Z2)^2-Z1Z1-Z2Z2)*H

Golangには行列の計算を行うパッケージなどはないので公式に従ってBig.Intでゴリゴリ実装しています。

次は、ヤコビアンからアフィン座標に変換するメソッドです。

image
func (curve *CurveParams) affineFromJacobian(x, y, z *big.Int) (xOut, yOut *big.Int) {
	if z.Sign() == 0 {
		return new(big.Int), new(big.Int)
	}

	zinv := new(big.Int).ModInverse(z, curve.P)
	zinvsq := new(big.Int).Mul(zinv, zinv)

	xOut = new(big.Int).Mul(x, zinvsq)
	xOut.Mod(xOut, curve.P)

	zinvsq.Mul(zinvsq, zinv)

	yOut = new(big.Int).Mul(y, zinvsq)
	yOut.Mod(yOut, curve.P)

	return
}

そして、アフィン座標 (x,y) に対するヤコビアンの z 値を返すメソッドです。 xy がゼロの場合、無限遠点を表す0を返します。

image
func zForAffine(x, y *big.Int) *big.Int {
	z := new(big.Int)
	if x.Sign() != 0 || y.Sign() != 0 {
		z.SetInt64(1)
	}

	return z
}

以上の3つの関数を組み合わせることで Add() を以下のように実装できます。

func (curve *CurveParams) Add(x1, y1, x2, y2 *big.Int) (x, y *big.Int) {
	z1 := zForAffine(x1, y1)
	z2 := zForAffine(x2, y2)
	return curve.affineFromJacobian(curve.addJacobian(x1, y1, z1, x2, y2, z2))
}

Double()

Double() は 与えられた点を倍にするメソッドです。これも Add() と同様にヤコビアン計算の公式[4]を使います。

A = X1^2
B = Y1^2
C = B^2
D = 2*((X1+B)^2-A-C)
E = 3*A
F = E^2
X3 = F-2*D
Y3 = E*(D-X3)-8*C
Z3 = 2*Y1*Z1

これをGolangで実装すると以下のようになります。

このメソッドを使って Double() を以下のように定義できます。

func (curve *CurveParams) Double(x1, y1 *big.Int) (x, y *big.Int) {
	z1 := zForAffine(x1, y1)
	return curve.affineFromJacobian(curve.doubleJacobian(x1, y1, z1))
}

ScalarMult()

ScalarMult() は与えられた点を k 倍するメソッドです。 スカラー倍を効率よく求めるには、二進展開法という手法があるのでこれを利用します。 k のビット数を n ビットとすると

image

このように表現でき、これをGolangで実装してみると以下のようになります。

ScalarBaseMult()

ScalarBaseMult() は楕円曲線暗号においてメインで使うメソッドで、ベースポイント Gk 倍した値を返します。 これは上で説明した ScalarMult() にベースポイント G を渡すようにするラッパーとして実装すればOKです。

func (curve *CurveParams) ScalarBaseMult(k []byte) (x, y *big.Int) {
	return curve.ScalarMult(curve.Gx, curve.Gy, k)
}

Secp256k1()

最後に init() でsecp256k1を初期化し、それを返す Secp256k1() を定義して完成です。

func init() {
	secp256k1 = &CurveParams{
		P:       p,
		N:       n,
		B:       b,
		Gx:      gx,
		Gy:      gy,
		BitSize: bitSize,
		Name:    name,
	}
}
func Secp256k1() elliptic.Curve {
	return secp256k1
}

コードの全体はここ[5]で公開しています。

使用例

package main

import (
	crypto "github.com/GincoInc/go-crypto"
)

func main() {
	crypto.Secp256k1().Params()
	kx, ky := crypto.Secp256k1().ScalarBaseMult([]byte{0x02})
	// kx: "C6047F9441ED7D6D3045406E95C07CD85C778E4B8CEF3CA7ABAC09B95C709EE5",
	// ky: "1AE168FEA63DC339A3C58419466CEAEEF7F632653266D0E1236431A950CFE52A",
	crypto.Secp256k1().IsOnCurve(kx, ky) // true
}

まとめ

今回はGolangでブロックチェーンの根本技術である楕円曲線暗号に使用する楕円曲線の実装をしました。 標準パッケージのインターフェースで実装することで他の楕円曲線との互換性もあり、使いやすいものになっていると思います。 Golangは便利な計算ライブラリがない反面、このように自分で実装することでより深い知識が得られるので非常に良い言語だと思っています。 また、公式からコードへの実装ができるようになるとホワイトペーパーを理解してコードに落とし込むことが容易になるので、 ブロックチェーンエンジニアになりたい方は是非プリミティブな暗号の実装をおすすめします。

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参考文献

  • [1]http://www.secg.org/sec2-v2.pdf
  • [2]https://golang.org/pkg/crypto/elliptic/
  • [3]https://hyperelliptic.org/EFD/g1p/auto-shortw-jacobian-3.html#addition-add-2007-bl
  • [4] http://hyperelliptic.org/EFD/g1p/auto-shortw-jacobian-0.html#doubling-dbl-2009-l
  • [5] https://github.com/GincoInc/go-crypto/blob/master/secp256k1.go